レベル0からの数学論(第4回):数学は「因果」と「持続」がそろって初めて働く

この記事では、数学が成立するために絶対に必要な“レベル0”の条件のうち、
「因果(入力→出力の安定性)」
「持続(時間が連続して流れること)」
の2つを取り上げます。

私たちは日常的に、

  • 原因があれば結果が生まれる

  • 時間が流れ続ける

ということを“当然”だと思っています。

しかし、この当たり前の前提がほんの少し揺らぐだけで、
数学は一歩も働かなくなる。
今回は、その根本理由を簡単に見ていきます。


この記事は「レベル0からの数学論」シリーズの第4回です。

→ 第1回:数学とは何か?「数学が始まるための条件」
→ 第2回:すべての数学は「区別」から始まる
→ 第3回:“同一性”と“順番”がなければ数学は成立しない

■ 私たちはなぜ「数学は万能だ」と思うのか?

現代社会では多くの人は、数学について次のように信じています:

  •  数学は世界のどこでやっても同じ答えがでる

  •  数学は万能である

  •  2+2=4 は普遍的な真理である

しかし実際には、芝居が舞台の上で初めて成立するように、

数学が人間に“普遍的”に見えるのは、数学を人間にとって普遍的に見せてくれる舞台があるからです

今回の記事で扱うのは、その中でも特に重要な2つ──
因果の安定持続の確保 です。

この2つが壊れると、数学は“その瞬間に”成立しなくなります

◆ レベル0: 世界が「ある一定の形で整っている」という最低条件

数学や算数が成立するための最低限として、世界がこんな状態で整っている必要があります:

  1.  区別できる(1 と 2 が違うと認識できる)

  2.  同一性がある(1 が次の瞬間も A1のままで存在する)

  3.  等間隔が保たれている(数字が等間隔に並べる)

  4.  因果の法則が働く(原因 → 結果が対応している)

  5.  時間が持続している(時間が途切れず続いている) などなど。。。。

算数・数学が成立するためには、この様に数値が「安定して変化できる」環境が必要です。

今回扱うのは、この④と⑤です。

1:因果(Causality)がなければ数学は動かない

原因と結果の法則についてです。

数学・算数は、つねに
“入力 (原因) → 出力(結果)”が安定している世界
でしか働きません。

この安定した対応そのものが、


◎ 因果の安定があるから、数学は計算できる

  • 1 に 1 を足すと(原因)、2 になる(結果)

  • 力を加えると(原因)、物体は一定の法則で動く(結果)

私たちはこれを当たり前だと思っています。

しかし数学が成立するのは、
「同じ操作=同じ結果」という因果が常に成り立つときだけ。


◎ もし 1+1 が毎回ちがう結果になったら?

原因から“結果が大量に生まれる”世界(多重結果世界)になったら。。。

たとえば次のような世界を想像してください。

1+1 をすると、結果が 5通り 生まれる

  • 今は 1+1=2 だが、

  • 次の瞬間 1+1=7

  • また次は 1+1=1.4124  などなど。。。。

こうなると、次のすべてが成立しません。

  • 方程式

  • 比例・反比例

  • 微分・積分

  • 速度・加速度

  • 物理法則

なぜなら数学は、
「入力と出力の対応が安定している」ことを前提にしているからです。

ほかにも、

* 原因と結果の順序が逆転する世界

* 結果だけが勝手に増殖する世界

でも、数学は成立しません。


◎ 結論

数学とは、
“因果が絶対的に安定している世界”の中でのみ成立する出来事
なのです。

2:持続(Continuity )がなければ「変化」が消える

数学は、つねに
「変化を追う」学問です。

しかし、変化にはひとつ大きな前提があります。

変化とは、時間が途切れずに持続して流れている世界でしか起こらない。

時間そのものが安定していなければ、
「前」と「後」を比べることができず、
変化はそもそも定義できないのです。


◎ 時間が持続しているから、変化が理解できる

私たちはふつう、時間が

  • 途切れず

  • 流れ続けて

  • 前に進む

という具合に存在しています。

時間が安定して続いているから、

  •  数の状態が「前から後へ」と変わる

  •  3 が 4 になる

  •  大きくなる/小さくなる

  •  速くなる/遅くなる

といった「変化」が意味を持ちます。

「持続が壊れる」=「時間の順番が壊れる」ことなので、
結果として 数の順番が勝手に入れ替わる、前後が混乱する といった現象が起きます。

この「持続」があるから、そのお陰で、

  • 速度

  • 傾き

  • 極限

  • 比例・反比例

といった概念が意味をもちます。


◆ もし持続が壊れたら?

次のような世界を想像してください。


① 時間が“飛び飛び”になる世界

例:

  • 1 秒後がいきなり 10 年後になり、また 1 日前に戻る

  • 計算の途中が全部消える(途中経過が存在しない)

これだと、

  • 「今から次」へのつながりがなくなる

  • 変化の連続が追えない

算数ができなくなります。


② 数や点が“存在し続けられない”世界

例:

  • 数字の 3 を見ていたら、次の瞬間に消えて 8 になっている

  • 図形の点が突然別の場所にワープする

  • 数直線の並びが毎秒ランダムに入れ替わる

この世界では、

  • 数えられない

  • 増減が追えない

  • 位置の変化が理解できない

つまり、変化を観察できない世界です。


③ 関数や計算が“一瞬ごとに別物”になる世界

例:

  • さっきまで「2 倍する計算」だったのが、次の瞬間「半分にする計算」に変わる

  • 1+1 のルールが一瞬で別のルールに書き換わる

これでは、

  • 継続した計算が不可能

  • 議論や証明が成立しない

数学の基盤そのものが消えます。


因果 × 持続 ⇒ 数学に「安定した世界」が生まれる

数学の本質はとてもシンプルです。

原因と結果がつながり(因果)
そのつながりが途切れず続く(持続)

この2つがそろってはじめて、
私たちは「変化」を追うことができます。

  • 同じ操作をすれば、同じ結果が出る(因果)

  • 前の状態と次の状態を比べられる(持続)

その結果、

変化を“安定して”扱える世界が生まれる。

これが数学の舞台です。

だから数学とは、

🔥 「安定した変化」を扱うための装置である。

 

まとめ:数学は特殊な条件の上に成り立つ

私たちは数学を「普遍だ」「どこでも通用する」と思っています。

しかし実際は、

  • 因果が壊れた世界

  • 持続が壊れた世界

では、数学や算数は作動しなくなる。

数学の“優秀さ”は、
強力な前提に依存していることの裏返しなのです。

泳ぐには水が必要なように、
数学が人間に万能に見えるのは、
数学を人間に万能に“見せてくれる舞台”があるからです。

◆ 次回予告

次回のテーマは、数学が扱うさらに基本的な概念──

  • 「位置」

  • 「方向性」

これらがどのようにレベル0(世界のOS)に依存しているのかを見ていきます。